TOB(株式公開買付け)が増えている?


株式の非公開化を目的とした豊田自動織機に対するTOB(株式公開買付け)がニュースとなっています。TOBでは、買付価格にはプレミアムを付与することが常識ですが、これに反し、今回のTOBは、提示価格が市場価格を下回る「ディスカウントTOB」となったことが、大きな話題となっています。

「最近TOBが増えていないか?」と思っている方も少なくないでしょう。私自身も保有銘柄のうち、一昨年は星光PMC東芝、昨年はファンケル、今年は住信SBIネット銀行がTOBとなりました。

今回は、近年のTOB増加の背景などをまとめてみたいと思います。


TOBとは?

TOB(Take Over Bid)とは、特定の企業の株式を市場外で、一定期間内に提示価格で買い付ける手法です。対象企業の経営権取得や、完全子会社化などを目的とします。


なぜTOBが増えているのか?

1. 企業のガバナンス意識の向上

東証が再三求めている「PBR1倍割れ企業の改善要請」により、資本効率の向上が重視されるようになりました。これにより非効率な持株構造の解消や、上場維持コストを回避する動きが進んでいます。

PBRとは、株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)の略で、企業の株価がその純資産に対して割高か割安かを示す指標です。PBR1倍割れというのは、企業の解散価値(純資産)よりも時価総額が低い、つまり、理論上は「株主にとって、株を保有するよりも、会社を解散して資産を清算・分配してもらった方が得である」ことを意味しています。低PBRが常態化している企業の場合は、「なぜPBRが低いのか(業績低迷、将来性の欠如、ガバナンスの問題など)」をしっかりと分析し、慎重に投資判断をすることが大切です。ちなみに、日経平均株価に採用されている企業の平均PBRは1.4倍前後です。

2. 円安・金利差によるM&Aの好機

海外資本にとっては日本企業が割安に映ることもあり、買収ニーズが高まっている状況。内資・外資ともにTOBを使った企業買収が活発化しています。

3. グループ再編・統治強化のニーズ

親子上場の解消、事業ポートフォリオの整理、スピーディーな意思決定を目的とした“完全子会社化”がトレンドになっています。

4. 投資ファンドの積極的な関与

物言う株主(アクティビスト)やPEファンドが、企業価値の再評価・構造改革を迫るケースも増加。TOBはその入り口になりやすいです。

PEファンド(Private Equity Fund)とは、上場していない(または上場廃止を前提とした)企業の株式に投資し、その企業の経営改善や再成長を図ったうえで利益を得ることを目的とする投資ファンドです。

5. 株主還元圧力の高まり

企業は株主の利益に応えるため、「株式の買い戻し」や「TOBを通じた市場からの退出」を戦略的に組み込むようになっています。


おわりに:TOBは企業の“変化のサイン”

TOBは、企業の構造変化・戦略転換の重要な兆候でもあります。近年のTOB増加は、日本企業の資本政策がより動的になっている証かもしれません。

投資家としては、

  • 情報を冷静に読み解き、
  • 背景や意図を理解し、
  • 自身の投資判断と照らし合わせる

そんな姿勢が求められる時代だと感じています。


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