【行政契約の原則から考える】備蓄米問題と随意契約の是非


小泉進次郎農林水産大臣が発表した「備蓄米の無制限放出」方針が、大きな話題を呼んでいます。米価格の高騰を背景に、政府備蓄米を市場に放出することで価格安定を図るという方針自体は、政策目的として理解できます。

しかし、ここで注目すべきは、放出方法として本来原則とされる「競争入札」ではなく、「随意契約」が採用された点です。

官公庁契約の原則は「競争入札」

行政機関が契約を行う際、その基本原則は「競争入札」です。これは、国民の財産である公共財の調達・売却にあたって、透明性・公正性・経済性を確保するために設けられた制度的な柱です。

競争入札であれば、多数の事業者が平等に参加する機会を得られ、価格や条件の妥当性が確保されます。特定の業者との「なれ合い」や、不透明な取引が排除される点で、国民の信頼を守るためにも不可欠な手続きといえるでしょう。

「随意契約」とは何か? ― 例外規定としての性質

随意契約は、その名のとおり「任意に決めた特定の相手と直接契約する」方式です。法律上は、一定の条件を満たす場合に限り認められています(例:災害時、緊急時、契約金額が少額な場合、独占的な技術を持つ業者など)。

つまり、随意契約は、競争入札に代わる例外的な措置であり、その適用には法律上の根拠と手続きの妥当性が必要とされます。

今回の随意契約は、正当か?

今回の備蓄米放出については「緊急性」という名目で随意契約が選ばれました。米の価格が上がり続ける中、市場への即時供給を優先した形です。

しかし、事後的に見れば、

  • 放出対象が限られた大手小売業者に偏っていること
  • 応募受付開始とほぼ同時に完売となり、中小業者に情報が届かなかった可能性があること
  • 価格設定が透明でないこと

など、公平性・透明性の面で疑問が残る対応だったとの声もあります。

制度上、緊急性が認められれば随意契約は合法ですが、それでも「説明責任」は避けて通れません。

行政手続における信頼の意味

今回の件は、行政が「手続きの原則」と「政策の実効性」の間でバランスをどう取るかを考えさせられる事例です。

私たち行政書士が日々向き合っているのも、「適正な手続き」をどう守りながら、実務を円滑に進めるか、というジレンマです。特に補助金や委託契約など、官公庁と民間の境界で行われる契約では、法律の建付けと現場の運用のギャップを丁寧に埋めることが求められます。


終わりに:例外は「例外」として管理することの大切さ

緊急対応が求められる状況であっても、例外的措置である随意契約を用いた場合は、後からでもその妥当性や公平性をしっかり検証する必要があります。それこそが、公的契約の信頼性を守るための最低限の責任です。


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