2025年7月8日、米国農務省のロリンズ長官が「国家安全保障上の重大な懸念」を理由に、中国などの外国勢力による米国内農地の新規取得を全面的に禁止する方針を正式に表明しました。さらに、すでに中国関係者が所有する農地についても、大統領権限による“回収”措置を検討中であることも明らかにしました。
■ 農地購入がなぜ国家安全保障の問題に?
この問題の根底にあるのは、単なる「不動産取引」ではありません。農地は、以下のような要素を内包しており、国の根幹に関わる資産と見なされています。
- 食料供給の基盤(食料安全保障)
- 水資源・インフラの戦略的拠点
- 軍事施設近隣での土地保有によるスパイ活動リスク
- 農業データや地政学的情報へのアクセス
実際に、過去には中国企業がノースダコタ州の空軍基地近隣の土地を取得した事例があり、議会でも「潜在的なスパイ行為の温床」として懸念されてきました。
■ 今回の発表のインパクト
ロリンズ長官の発表は、以下の2点で画期的です:
- 新規取得の禁止方針:中国など特定国に対し、連邦レベルで農地取得を禁止する。
- 既存保有分の回収検討:すでに取得された農地を、大統領権限(IEEPA法など)により接収する可能性に言及。
ここまで踏み込んだのは初めてであり、「米中間の経済冷戦」が次のステージに入ったと見る向きもあります。
■ 対象となる国と企業は?
ロリンズ長官は「中国をはじめとする外国敵対勢力」と表現しており、具体的には以下の国が想定されています:
- 中国
- ロシア
- イラン
- 北朝鮮
また、国籍だけでなく、中国政府と関係の深い民間企業・ファンドも対象になると予想されます。
■ 「接収」はどこまで現実的か?
所有権を国家権力が取り上げる「接収(回収)」は、憲法上の問題や補償の在り方が争点となる極めてセンシティブな問題です。今後、大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)などの法律に基づいて命令を出すかどうかが焦点になります。
ただし、議会や世論の後押しが強ければ、既存保有の強制売却・収用が現実になる可能性も十分にあります。
■ 日本への示唆と教訓
日本でも、外国人による森林・農地・水源地の取得が問題視されてきました。2022年施行の「重要土地等調査法」では、防衛関係施設などの重要施設に隣接する土地の取得に対して一定の調査権限が与えられましたが、明確な取得禁止や接収の制度はありません。
米国のような国家安全保障との明確な接続がない中、日本も今後「どのように土地の所有と国家の安全を両立するか」が問われる時代に入ったといえます。
【まとめ】
- 米ロリンズ農務長官が、中国などによる米農地の取得禁止を表明。
- すでに取得された農地の「回収」も大統領権限で検討中。
- 背景には、農地の地政学的・情報的価値の高まり。
- 日本にとっても、他人事ではない。土地と主権、安全保障の接点を見直す時期に。