野生の熊による被害が連日のように報道されています。山間部だけでなく、市街地にまで出没する事例もあり、危険を感じる場面が増えてきました。こうしたニュースを見て思い出されるのが、行政書士試験の過去問に登場した「熊」に関する民法の問題です。
■ 過去問に登場した「野生の熊」
行政書士試験の民法で、次のような問題が出題されたことがあります。
「野生の熊が襲ってきたので、自己の身を守るために他人の宅地へ飛び込み、板塀を壊した者には、正当防衛が成立するか?」
一見すると、「命の危険があったのだから正当防衛になりそうだ」と思うかもしれません。しかし、この問題の正解は 『誤』 です。
なぜなら、正当防衛は“他人の不正な行為”に対して行うものだからです。
■ 正当防衛と緊急避難の違い
民法は、他人の権利を侵害してしまった場合でも、それが一定の要件を満たせば責任を負わない制度を定めています。それが 正当防衛 と 緊急避難 です。
◆ 正当防衛(民法720条1項)
成立要件は以下の通り:
- 急迫不正の侵害(他人の違法な攻撃)があること
- それを防ぐために必要な行為であること
- 手段が相当であること
つまり、相手は 「他人」かつ「不正な行為」(違法な攻撃) をしている必要があります。
野生の熊は人間ではなく、当然「不正な行為」でもありません。よって、正当防衛は成立しません。
◆ 緊急避難(民法720条2項)
一方、緊急避難は次のような場合に成立します。
- 自分または他人の生命・身体・財産を守るため
- 危難を避けるためにやむを得ず他人の権利を侵害したとき
- その危難が「他人の不正な行為」によらない場合でもOK
熊に襲われるのは、まさに生命の危険です。
よって、他人の宅地に飛び込み板塀を壊した行為は 緊急避難 に該当します。
■ 現在の社会問題としての熊被害
昨今の熊被害の増加は深刻な問題です。
- 餌不足による市街地出没
- 人家への侵入
- 散歩中や農作業中の遭遇
- 子熊に近づいたことによる事故
こうした状況が続くと、今回紹介したような「危険から逃れるために他人の敷地へ避難する」状況が現実に起こりえます。
もしその過程で、不本意ながら他人の物を損壊してしまった場合でも、命を守るための行為であれば法律は一定の合理性を認めている、という点は知っておいて損はありません。
■ まとめ
野生動物による危険は「他人の不正な行為」にはあたらないため、正当防衛は成立しません。
しかし、生命の危険を回避するためにやむを得ず行った行為であれば、緊急避難が成立し得るという点がポイントです。
法律の条文は難しく感じられますが、身近なニュースと結びつけて考えることで理解が進みます。行政書士試験の民法も、こうした「生活の中での法律」を問うことが多いため、時事的なテーマと絡めて学ぶのは非常に効果的です。


